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episode26 「……騎士」

Author: 小鳥遊梓
last update publish date: 2026-08-28 18:00:55

「馬鹿め、敵うはずないだろ!」

 鋭い声で叫ぶと、男たちは武器を取り出して構えた。両者とも金髪であるため、どうやらフリストレールの者ではないらしい。槍を持つ男と、盾を持つ男。役割を攻守で分担しているようで、見たことはないが恐らく動きづらいだろう。槍の男は既に突きの体制に入っており、私の喉元を正確に攻撃する。私はそれを屈んで躱すと、そのまま懐へと走った。

「兄貴!」

 盾の男が、武具を槍の男の前に翳す。

 その判断は正しい。なぜならすでに、私はペティナイフの一本を男たち目掛けて投擲していた。ペティナイフは金属製の盾により音を立てて弾かれ、男たちの足元へと落ちる。

「よくやったぞ兄弟!」

 槍の男が叫びながら、跳躍する。盾の男の肩を足蹴にして跳び、私の頭上を越えて背後に降り立つとそのまま槍による刺突を放つ。

「は?」

 だが、石礫でも当たったような痛みだった。恐らく穂先は刃物ではなかったのだろう、全くの無痛というわけではなかった。刃は私の背中にわずかに刺さり、そして引き抜かれる

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  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode26 「……騎士」

    「馬鹿め、敵うはずないだろ!」 鋭い声で叫ぶと、男たちは武器を取り出して構えた。両者とも金髪であるため、どうやらフリストレールの者ではないらしい。槍を持つ男と、盾を持つ男。役割を攻守で分担しているようで、見たことはないが恐らく動きづらいだろう。槍の男は既に突きの体制に入っており、私の喉元を正確に攻撃する。私はそれを屈んで躱すと、そのまま懐へと走った。「兄貴!」 盾の男が、武具を槍の男の前に翳す。 その判断は正しい。なぜならすでに、私はペティナイフの一本を男たち目掛けて投擲していた。ペティナイフは金属製の盾により音を立てて弾かれ、男たちの足元へと落ちる。「よくやったぞ兄弟!」 槍の男が叫びながら、跳躍する。盾の男の肩を足蹴にして跳び、私の頭上を越えて背後に降り立つとそのまま槍による刺突を放つ。「は?」 だが、石礫でも当たったような痛みだった。恐らく穂先は刃物ではなかったのだろう、全くの無痛というわけではなかった。刃は私の背中にわずかに刺さり、そして引き抜かれる。その間に、私は槍の男との距離を詰め、空いた顎に大剣の柄を叩き込んだ。「兄貴!」 その声と同時、槍の男は地に崩れ落ちた。手加減はしたため殺害はしていないだろうが、殺傷力の高い攻撃のため保証は出来ない。そのまま盾の男へと走ると、既に防御態勢は取られていた。眼前に盾を突き出した、完全に防御に徹するという構え。 しかし、躊躇なく。その盾に大剣を降り抜く。「ま、マジかよ……」 砕け散る盾を見て、男は思わずそう呟く。 呆ける男の首根っこを掴むと、そのまま地面に叩きつける。喘ぐ呼吸は火焔のようだった。抵抗しようと私の手首を掴むが、男の意識はそこで途切れる。四肢を放り投げて、そのまま動かなくなった。男たちは何者なのだろう。 そう思いながら、近くに自生していた蔓で男たちの手足を縛る。大した拘束力はないと思うが、縛らないという選択はない。生きていたらの話ではあるが、話は彼らが覚醒してから聞くことにする。 私は鎧を洗わなければならないのだから。それでも目覚めなければ、

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode25 「あぁ兄弟。だが全部脱ぐまで待て」

     村の外は変わらずに緑の海だった。昨夜の名残である滴を付けた葉がそこかしこで光り、原を進むたび私の脛当や鉄靴を濡らす。草原は広く、遠くに見える森もどれだけ距離があるのか一行に掴めない。恐らくは森の中に川が通っているのだろうが、その肝心の森がずっと遠くにあるように感じられる。しかし、列車を降りて見た景色よりは遥かにマシに思う。見渡せど見渡せど、カルムへの往路は草原以外何も見えなかったのだから。 そう考えると、草原に果てに見える濃緑の塊も少しずつ近寄って来ている風に感じた。そういえば、村の男たちはどこに畑を作っているのだろう。見渡しても一面には緑の大地しか見当たらず、まさか見えないぐらい遠い場所で農作業をしているわけではあるまい。この広い平原に畑を隠匿する術があるというのなら、それはそれで魔法と言っていいだろう。 そうしているうちに、森が近づいてきているのに気が付いた。風が吹き渡り、白く光りながら野原は波を立てる。小鳥の声がしきりに耳をつつくが、姿は見えない。草むらの中に隠れているのだろうが、しきりに風が葉の音を立てるので正確な位置は把握出来ない。把握しようと耳を立てれば、その音は雑多な騒めきによって掻き消されてしまう。野鳥ならば森に姿を隠すものだと思っていたが、どうやらこの辺りの小鳥達は草原に身を寄せるらしい。それとも、何かしらの理由で森にいられない理由があるのか。昨夜、巨狼が荒らしていた森からは梟の鳴き声がしていた。梟は猛禽類だ。だが、巨狼と梟という理由だけでは、小鳥が追い出される理由としては弱い。小鳥を主食とする害獣が住んでいるのか、或いは、もっと別の脅威が存在しているのか。 考えても仕方がない、散策すれば分かる事だろう。そう至る頃には森は目の前まで迫っていた。ほどなくして草原を抜けると、ひしめき叢がる緑の大海が眼前には広がる。恐らく川が流れているであろう、南方の森へとたどり着いたのだ。永遠に横へ広がっているはずはないため迂回しようと思えば出来るのだが、その果ては見えない。となれば進むには森を行くしかない。 思って、先ほど商店で購入したペティナイフを取り出す。通った木に印を刻んでいくためだ。どれほど広いか分からないため必要かは不明だが、戻る際迷わないに越したことはないだろう。 入り口に立つ一本の木に

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode24 「ううん、見たことない髪の色だったよ」

     ロラの家に戻ると、彼女はいつの間にか戻って来ていた。幼馴染である鍛冶屋の様子を見に行っただけなので、そこまで長居はしなかったのだろう。見ると薬草をすり潰しているところで、どうやら昨日制作していた治癒液は違うらしい。制作過程を見ていないため、もしかしたら同じものを作っている可能性も捨て切れないが。「あれ、騎士様お帰りー。随分遅かったね」「カルムの構造を把握しておきたいと思いまして。少し歩いておりました」「そっかそっか」 すり潰した薬草を鍋に入れながら、ロラは同意するような人懐っこい笑顔を見せた。「それで、一通り見て来たって感じ?」「いえ、商店のご主人に頼まれ事をされてしまって」「商店……? あぁ、もしかしてその人声が大きい?」 同意するように頷くと、呆れたように口角に笑みを作った。ロラがそう言うからには、あの店主は普段から声が大きいことで村に浸透しているのだろう。「それで、頼み事って?」 ロラは作業するその手を止めて聞いてきた。話す内容をしっかりと聞こうという姿勢を感じる。対して、私は店主の依頼を出来るだけ彼が言ったことをそのまま彼女に伝えた。説明は苦手だ。正確に事を伝えなければ殴られる環境にいたせいで、言葉にする際妙な緊張感が胸を締め付けてくる。痛かったというわけではないのだが、やはり苦手と言わざるを得ない。「あぁ、確かに最近来ないわぁ。あたしもたまに薬を卸してたからさ、どうしたんだろうって思ってたんだ」 ロラは思案するように首を傾げると、机の上に並んだ何本かの瓶に目をやった。商品として渡すつもりでいた治癒液なのだろう。カルムに寄る商人は一人ではないため特にという風ではなさそうだが、たしかに困る者が何人もいるなら解決したほうがいい事案だと、私は思った。もちろん、私の都合が噛み合ったからというのが大きいが。「その商人の特徴を教えてもらえますでしょうか」「特徴かぁ。そうは言ってもグリフォンに乗ってるのが一番の特徴だからねぇ」 それではグリフォンと一緒にいない場合、判断が出来ない。そう言うとロラは家のあちこちをうろうろし

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode23 「どうでもいいだろ、そんなこと」

     そうして2本のペティナイフを購入すると、商店を出た。値段は良心的で、今まで意図して支給される金貨の数を減らされていた私にとっては、とてもありがたい。村だからこその価格設定なのだろうが、なんにせよこれで万が一の際における暗器も確保出来たことになる。 外に置いた武具を装備し直すと、そのまま巨躯の彼が立つ入り口へと向かう。雨で洗われたとはいえ、この鎧も一度血に塗れている。そろそろ一度水洗したいところではあるが、そのようなことをしている場合ではない。付近に川か泉なんかがあれば別だがあまり期待はしないことにする。 村の入り口には早朝と変わらず巨躯の彼が立っていた。岩陰で番人の責務を横着していた双剣の彼女とは違い、しっかりと腕を組んで入り口に立ち塞がっている。 だがしかし、そこには何故か兵士の姿があった。先日まで私も装備していた防具を身に着けたその兵士。何やら巨躯の彼と兵は互いに声を張り上げており、押し問答を繰り返しているようなのである。私にはどうしてカルムに首都を護るための兵士がいるのか分からず、その様を見つめていた。「だから、この村にエメなんて奴はいねぇんだって」「分からない奴だ、あの女がここに昨日来ただろう? あいつを出せと言っているのだ」 兵士の言っていることを汲み取るとどうやら誰かを探しているようだ。そして、その誰かの名前は明らかに私の名前を告げていた。「失礼いたします。どうかされたのですか」 出せ。知らない。そんな嚙み合わない主張の間に割って入る。そういえば、巨躯の彼は私が名乗る前にその場を立ち去ったのだった。声に反応して、両者は私へと顔を向ける。特に兵士のほうは侮蔑をきわめた表情を二つの目に集め、私の顔を斜めに見返す。道端の吐瀉物でも見てしまった、そんな顔。「おう騎士様」 巨躯の彼はそう気さくに反応した。それに、私は頭を軽く下げることで返事とする。状況に反してあまりに気軽に返されたものだから、少し意外だ。今まで目の前の兵と言い争っていただけに、こちらにも苛ついた風に返事をするだろうと思っていた。「幽霊のくせに出迎えが遅いんだよ! いい身分になったもんだな」 怒りと苛立ちが含まれた声。

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode22 「見かけたらでいい。すぐ分かる。なんせ」

    「何故、ですか」 そう問うと、店主は体をそのままに背後の階段を見る。「娘が怖がんだよ」 子供が怖がっているのは恐らく、声量も一因だろう。などとは口が裂けても言えない。余計なことを口にして処分された兵などたくさんいる。「……承知いたしました」 装備を解除する不安は若干あるが、そう言われたなら仕方がない。大剣の留め具を外し、地面に突き刺す。たしかに、大剣は店内に入るうえで私以外の者には邪魔になる。剣を地面に突き刺した音で、店内にいる者が驚異の眼をみはった。 そして腕当てから外していき、上半身の武装を解いたところで何故か店内で雑多なざわめきが起きていることに気が付く。肌着は着ているため、素肌は晒していないはずだが。「おいおい、待て待て待て!」 どうしてか、その声色には奇妙な焦燥感が含まれていた。そもそも声量の大きい彼がさらに声を張って、村人たちは耳を押さえる。昨日聞いた汽笛にも勝る声量に、かたかたと商品棚が揺れた。「いかがされましたか?」 私の手はちょうど腰当を外そうとしていたが、そんなにも大きな声を出されたら止めざるを得ない。「いかがなされた、じゃねぇよ! こんなところで脱ぐんじゃねぇ!」「ですが鎧を外すよう言われましたし、それに肌着も着ています。猥褻な恰好を晒すわけではないので……」「そうじゃねぇ。入り口でそんなことされたら邪魔だっつってんだよ」 なるほど。幸い誰も入店がなかったため阻害にはなっていなかったが、決して広いわけではない出入り口で装備を解除するべきではなかった。剣と鎧を持ち込むなという言葉を優先してしまったため、たしかにその怒声は道理だ。上官が武装解除と言えばその場で鎧を外すことが当たり前であった私には、その配慮は欠けていた。「……失礼しました」 一瞬だけ、ここへやって来るときに着ていた洋服のことが頭をよぎった。恐らく村内を散策するのに印象がいいのはあの装いだろう。だが、あんな動きづらい服で歩き回っていてもしもの事があった場合を

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode21 「だが次来るときは、剣は置いて来い」

    「作ってあげたらいいじゃん、鞘」 鍛冶屋の背後からロラが現れる。その手には鉄のトレーを持っていて、焼き立てのパンとサラダが乗っていた。時折物音があったのは、どうやら鍛冶屋の朝食を作っていたためらしい。「騎士様困ってるみたいだし」「知らないよそんなの、僕には」 同意だ。私だって、剣と鞘は一対で作りたいという意思なんて知ったことではない。たた、これ以上ロラに借りを作るわけにはいかないので、割って入ることにした。「あの、剣と鞘であれば作って頂けるのですか」 もともとどうしても、というわけではない。私が諦めることでこの面倒が解決されるのなら、躊躇なく引き退がろう。「……いいよ」 私の不意の一言に一瞬口を緩ませるが、すぐに硬く結び直してそう答える。「背中のそのサイズでいい?」 鍛冶屋が指を差しながら問うたため、「はい」と喉の奥で応えながら頷いた。必要なことだけを淡々と話す彼女との会話はとても楽だ。考え方の相違を除いてだが。「いいの? 騎士様」「はい」 どうしてという表情で首を傾げてみせる。指先を唇に当てて、街娘みたくこれ見ようがしに。少しの間そう考えたあと、やがて自分の中に落とし込んだのか得意な屈託のない笑みを浮かべる。「騎士だからって優先は出来ないよ」「構いません」 彼女は鍛冶の役目を負ってこの村にいるのだ。いくら私がある程度地位を所持していようと、それは変わらない。なら彼女の言うことは道理である。それに私の中で優先順位はさほど高くないことから、納得も容易だった。 そうなると、もうこの場所に私は要らない。「騎士様、先に帰ってて。あたしはもうちょっとすることあるから」 言いながら、自然に鍛冶屋の肩に両手で触る。心を読み取ったかのようなタイミングだった。鞘の話は一応ひと段落着いたのだから、当然と言えば当の流れだが。 彼女のために用意された麻袋の件もあるだろうが、朝食を用意するくらいだ。よほど親密な関係なのだろう、ぺたぺたと触るロラを嫌がる素振りはない

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